電力自由化がもたらしたのはハイエナだった件

本日の電気新聞より
http://www.shimbun.denki.or.jp/news/energy/20120127_02.html

日本卸電力取引所 (JEPX) のスポット取引が価格上昇、約定量増加を続けている。 26日に行われた27日渡し取引の価格指標は、24時間平均が前日比4円04銭高の30円29銭、昼間平均 (午前8時〜午後10時) が同85銭高の31円45銭、ピーク平均 (午後1時〜同4時) が同横ばいの33円97銭となった。 約定総量は同35万4500キロワット時増の2439万2500キロワット時。 市場関係者によると、引き続き東日本 (50ヘルツ) エリアの買いが強く 「全体の8〜9割が東日本の買い約定だったようだ」 (同) 。 継続的な冷え込みや、25日発生した北本連系線トラブルの影響もあったとみられる。

家庭用の電気料金が24円/kWhと言われてますから、この買い手が電力会社なら完全に逆ザヤです。おそらく買い手は予備率が10%を切ってる東北電力ではないかと思われますが。ちなみに東京電力東北電力への応援は融通なので、取引所は介していませんし、こんな暴利な値段では取引はしてないでしょう。おそらくほぼ原価だと思います。
日本の卸電力取引所というのは金融商品先物と違い、実際に電力をやり取りする会社しか参入を認めていません。これは金融商品のように金が金を生むようなことになったら電気代の値上げという形で被害をこうむるには消費者だからです。ですが、そんな制限された市場であっても家庭用よりも高い値段をつけて売りつけてやろうと暴利をむさぼるハイエナがいるわけです。電力会社は供給責任がある(その裏腹に規制があるわけですが)ので、電力を確保するためなら値段には糸目をつけない。それを見越して30円/KWhなどというバカみたいな値段をつけるわけです。
さて東日本大震災、そしてそれ以降の原子力発電所の順次停止により日本全体の電力供給力は次第に少なくなっています。では電力取引の実態はどうなっているか?

グラフは昼間(8時から22時)の取引実績で黄色がH22年度・オレンジがH23年度です。供給力の低下につれ価格も右肩あがりになっています。また、夏は価格が高騰してます。日本全国が節電でやっきになっている中、大儲けした不届きものがいたわけです。現在のところ日本の電力供給における市場取引の比率は極々わずかです。ですからさほど問題ないのですが、自由化がさらに拡大していたら?電力料金はもっとあがる。結果、節電は進むかもしれません。ですが、それが望ましい姿ですか?電力事業に参入した○○会社が電力危機で販売価格が高騰した結果、史上最高の増益になりました、などとなっても自由化だから仕方ないねと納得できますか?
総合資源エネルギー調査会基本問題委員会(第1回会合)で自由化の急先鋒である大阪大学の八田先生はこう述べてます。

今回の原発事故の後、東電は、基本的に需要を抑制する手段を持っていませんでした。それは、日本の電力のすべての相対契約が、料金は決めるけれども、あとは最後の瞬間まで使いたいだけ使っていいという使用権契約だからです。したがって、電力がいくら不足していても、価格は上がりようがない。これが根幹的な問題だと思います。

裏を返せば、電力が不足すればいくらでも価格が上がっても仕方ないとおっしゃってるわけです。そしてこんなこともおっしゃってます。

次に、電力供給が不足したときに、新規参入者が、自分のお客さんの必要な量より余計に生産しようとすると、これは驚くべきことに電力会社に没収される仕組みになっています。これを買ってくれないのです。これを、諸外国でごく当たり前にやられているように、余計に発電した分はそのときの電力会社の最終の限界費用でもって買ってくれる仕組みにすべきだと思います。現行方式では、新規参入者は入りにいくいので、電力会社にとってはもちろん非常に役に立つ方式ですが、安定供給は非常に重要ですから、限界費用清算する仕組みを入れるべきです。

確かに各電力の託送契約は八田先生のおっしゃるとおりになってます。では、東日本大震災の時、新規参入者である東京ガスはどうしたか?
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1103180004/

東京ガス昭和シェル石油と組んで昨年運転を始めたガス発電所、扇島パワーステーション(81万キロワット)は「可能な限り東電へ供給している」(東ガス)。JX日鉱日石エネルギーと建設した川崎天然ガス発電所(84万キロワット)もフル稼働している。

この時点、東日本地区の取引所は取引中止になってましたので、取引所を通じての支援ではありません。東京ガスは没収覚悟で無償で東電に協力したのか?企業である以上、そんなことはないはずです。何らかの形で価格を決めて支援したと思われます。その意味では今の制度でも応援体制はとれた。ここぞとばかりに東電はふっかけられたかもしれませんが、それも自由化です。

電力自由化のあり方は2000年頃に真剣に議論がなされ、今の形があるわけです。決して、電力会社が政治に圧力をかけて。。。みたいな分かりやすい物語ではないのです。もちろん新規参入が2%程度にすぎない現状がよいとは思いません。ですが、曲がりなりにも10年の歴史がある自由化の結果を踏まえた議論があるべきだと思います。